ヒトの進化からみた、なぜ世界には豊かな国と貧しい国があるのか。
Eテレ ダイアモンド博士の“ヒトの秘密”シリーズ第8回のまとめ
なぜ世界には豊かな国と貧しい国があるのか
まず意外なのは、現在アフリカが貧しい国となっているということです。ヒトはアフリカでおよそ500万年前にチンパンジーから枝分かれしました。そのほかの大陸にヒトが出現したのは200万年前頃からです。ものごとを早く始めるというのは重要なことです。馬でも人でもスタートで先行した人が優位になりますよね。ではなぜ初めににリードしていたアフリカが現在最も貧しい大陸になったのでしょうか。
格差の原因
ダイアモンド博士は、原因が農業のはじまりの不均衡にあると言います。農業はその生産性から人口を増加させ、権力を与えました。もし農業が魅力的なら狩猟採集民は農業に移行していったはずです。しかしすぐ農業に移行できる地域は限られていて、そのタイミングには差がありました。
現在主に家畜とされている動物ビッグファイブは、
牛、豚、馬、ヤギ、羊
です。
動物が家畜化できる条件として、
- リーダーに従う性質
- 成長が早い
などが挙げられます。凶暴な動物では手なずけることが難しいし、小さな動物では生産性に欠けるからです。その他にも水牛、ロバ、ラマなど十数種類あります。しかし世界で数千種類いる動物の中で家畜化できたのがこれだけとは。かなり少ないですよね。
そして最初に農耕が始まったのは肥沃な三日月地帯と呼ばれる場所でした。
イランやパレスチナなどの三日月型の一帯のことを指します。メソポタミア文明が栄えたことで知られています。世界史の授業で、「土地の栄養分が多くてたくさんの作物が育ち、文明が栄えた。」と習いました。ですがこの肥沃な三日月地帯呼ばれる場所、実は肥沃ではないらしいんです(笑)。むしろ乾燥していて植物を栽培するのには適していない。ではなぜこの地域が最初に農耕に移行したのか。それは先程挙げたビッグファイブの存在です。この地域には家畜化しやすい動物が揃っていました。アマゾンの熱帯や、北の大地に比べると気候が穏やかだからでしょうか。
そのほかの原因として、人の主食である、米、麦、とうもろこしなどの穀類です。アメリカ原産のトウモロコシには品種改良に長い年月を費やしたし、ヨーロッパの麦の方がアジアの米より栄養価が高い。このような栄養価や品種改良のしやすさなどが農業の不均衡を起こしました。
そしてこれらの家畜化できる動物や改良して栽培できる植物は世界に均等に分布していたわけではなく、中近東、中国、ニューギニア、サヘル地域、西アフリカ、エチオピア、アメリカ東部、メキシコ、アンデスアマゾンの9〜10の限られた地域だけでした。
農業はどのように広まったのか
肥沃な三日月地帯は最初に農耕へ移行した地域でしたが、その後世界を支配したかといえばそうではありません。その代わり、他の地域に急速に広まっていきました。
農業は主に東西に広がりました。緯度が同じことから、日照時間や気候、病気などが似ていて、農業のノウハウが伝わりやすい環境だったからです。
しかし南北にはどうでしょう。
南へ行くと熱帯になりさらに南下すると寒くなる。季節や文化が大きく違うので、伝わるのに時間がかかった、あるいは伝わりませんでした。アンデス地方で栽培されたジャガイモや家畜のラマはメキシコやアメリカまでは伝わらなかったのです。発明や技術についても同じことが言えます。
農業が食料以外でもたらしたこと
初期の農業には他にも2つの利点がありました。ひとつは馬に関することです。スペイン人がアメリカに攻め込むためにメキシコや南米にやって来た時、当時南米で力のあったインカ帝国約8万の兵に対し、向かい打ったスペイン兵はたった160人ほどでした。しかしスペイン兵には61頭の馬がいました。馬は立派な兵器です。でもアメリカ大陸には馬がいなかった。これがヨーロッパ人がアメリカを征服した要因ひとつです。
そしてもうひとつは病気です。動物が家畜化したことによって動物の病気が人間に感染るようになりました。疫病です。これらの病気に打ち勝って、体内に抗体を持ったヨーロッパ人でしたが、アメリカ先住民はそのような抗体を持った人はいません。
つまり家畜の病原菌と馬がヨーロッパによるアメリカ征服を実現したということです。
最後に
貧富の差は、栽培できる植物や家畜化できる動物の分布が偏っていたこと、大陸の気候や形状の違いが原因であって、人種や民族の違いではないということです。
なぜヨーロッパ人が世界を席巻できたのか。それは農業に早く移行できたからです。しかしそれさえ自分たちで獲得したものではありません。肥沃な三日月地帯がもたらしたものを、受け継ぎ広めただけなのです。